移住者が地方創生する可能性と、移住だけではない地方創生の仕組みづくり

栃木県矢板市

しじま なおと

四十万 直人

富山県魚津市出身、中学・高校時代は吹奏楽部に所属しトランペットを吹いていた。 高校卒業を機に関西の大学へ進学。日本赤十字社の学生ボランティアに携わり、国内外でボランティア活動に従事。 地元のITベンチャー企業に就職後、東京のソフトウェアベンダーでの営業職への転職を経て、2022年7月に矢板市に移住して地域おこし協力隊に着任した。

一どんな活動をされていますか?

矢板市で地域おこし協力隊として活動をしています。
学生時代のボランティア活動を通じて、地域に暮らす人たちに本当に役に立つことは何か。を考えながら、現地の人たちと交流することが個人的に楽しく、地域の発展や暮らしを良くするために、学生の自分たちと地元の60代のおじいちゃんたちと対等に意見し合う関係を築いて、こういう活動を行っていけば地方がよくなるのではないかと思っていました。
東京で働いているうちに、そのような地方がよくなるための活動をライフワークにできたらいいなと考え、起業や移住について調べているなかで、地域おこし協力隊のことを知り本格的に移住の検討を始めたんです。

移住先の候補地はいくつかありました。そのなかで矢板市に決めたのは、市側の担当者が県外からの移住者であり、良い意味で公務員っぽくなくて面白そうだなと感じたことと、他の選択肢に比べて矢板市はあまり有名ではなかったからこそ自分のような移住者が活躍できる機会があるのではないかなと考えたからです。

地域おこし協力隊としてのミッションは、矢板市のふるさと納税の寄附件数・寄附額をアップさせることです。返礼品の広告だけでなく、新たに返礼品のラインナップに加わってくれる市内の事業者を探すことも業務の一つです。

また、矢板ふるさと支援センター「TAKIBI」の運営・管理にも携わっています。TAKIBI内のコミュニティスペースの運営を通じて、我々だけでなく利用者同士で繋がりを持てる機会を作ることができました。スペースでよく仕事をされているITエンジニアの方が、市のプログラミング教室事業の講師サポートに繋がったこともあります。

一今やっていることについての課題はなんですか?

寄附額を上げるために、何からすればいいか分からない、という答えのないミッションに立ち向かうという状態からスタートしました。

寄附額を上げることは、民間企業が売上を上げることと似ているのではないかと考え、商品単価を上げる、商品ラインナップを増やす、リピーターを増やす(顧客満足度を上げる)など営業時代の経験を活かして地域おこし協力隊の仕事に取り組み始めました。すでに取引のある事業者への挨拶まわりから始めて、新たに返礼品を提供してくれる事業者を探すために新規の事業者を訪問するなど、ひたすら足を使って話をして仲良くなることを心がけました。

そういった話をする中で、市内の事業者の大半の方々が「このままでは矢板は衰退する」という危機感を持っていることは、印象的でした。

一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?

ふるさと納税の新規案件獲得については、ありがたいことに協力的な事業者が多く、新規返礼品登録事業者数を15社追加し、令和4年度の寄附件数は前年度比約1.6倍となりました。また令和5年度には企業版ふるさと納税の誘致も行い、2件獲得しました。地域おこし協力隊が能動的に企業版ふるさと納税を誘致した事例は全国初とのことです。

しかし、ふるさと納税の寄附件数や寄附額のアップは地域の発展の入口に過ぎず、行政だけでなく、場合によっては民間の力も借りるプロジェクトとして、観光や移住、関係人口などの地域振興につなげていくことが大切だと考えます。

TAKIBIの運営においては、街の情報が一元化されてなかったり、入場記録を手書きで管理していたり、アナログな業務が多いです。これらの業務を、ITを使って効率化を進めていきたい思いも抱いています。そして、SNSなど広報面でもITを活用していきたいと考えています。

一今後の目標はなんですか?

引き続きふるさと納税のミッション実現に取り組んでいきたいです。また、若者と大人が一緒になって何かを運営していく機会を作って、市民の交流を活性化していきたいとも考えています。

地域おこし協力隊の退任後は、ふるさと納税への取り組みも含めて、総合的なまちづくりの会社を興したいと考えています。市内にはイベント会社がなく、自分が窓口となり市民同士の繋がりを活かして様々なイベントを企画できると思います。

いくら矢板のりんごが名産だからといって、りんごが美味しいから移住しようという人はほとんどいないと思います。一方で、りんごをきっかけに矢板という街を知ってもらうことや、矢板に行ってみようかなと思うことのハードルは移住に比べれば低いことでしょう。まずは矢板のことを知ってもらって、名産品やイベントなどを通じて矢板が気軽に来られる選択肢の一つとなれば、人とものの行き来が増えることが期待できます。必ずしも移住者が増えればいいとは思っていなくて、矢板に来たら楽しいなと思う人が増えて、一人でも多くの矢板リピーターを生んでいきたいです。

編集後記

昨今、地域おこし協力隊や移住者が現地民から村八分にされるような事例も一部界隈では起きているようです。しかし、矢板市では四十万さんをはじめとして他にも複数人の移住者の方に話を聞いたことがありますが、皆さんのびのびと活躍されていて、現地民との交流も特に問題になっていない印象です。そうした市外・県外からの移住者の活躍もあって、矢板市は着実に良い方向に向かっているように思えます。
今回のインタビューで最も印象に残ったことは、「市内の事業者の大半は危機感を抱いている」というお話です。市内の事業者は自らが生き残ることに必死ですし、その上で何か矢板のためにできないかと一生懸命経営・活動されています。それでも、危機感を抱くほどの現実を受け止め、四十万さんのような外からの移住者の話に耳を傾けることが地方創生の観点では尊いと思い、大いなる可能性を感じました。

-コーディネーター紹介-

ID 栃木県矢板市

うちぼり ゆうた

内堀 雄太

東京都杉並区出身で、生まれも育ちも現住所も東京。
2020年5月に株式会社VSN(現:AKKODiSコンサルティング株式会社)に中途入社。
インフラエンジニアとして業務従事する傍ら、Social Innovation Partners活動に参画。